B&O A8ヘッドホン レビュー




 
 出張などで特急列車に乗った際にはここぞとばかりに寝たいのだが、朝の列車はおばさま三人衆のかしましいトーク、昼の列車は元気のよいお子様のはしゃぎ声、夜の列車は酔っぱらいサラリーマン二人組の仕事愚痴トークと、ゆっくり寝られもしない環境であることがほとんどだ。貴重な睡眠時間を確保するためにはこういったノイズは消し去りたい。そんなとき、アクティブな方法=すなわち馴染みの音楽で打ち消すのはよい方法だ。そんな訳で俺の場合、出張でポータブルオーディオは手放せない。以前はソニーのMDウオークマンを使っていたが、最近はもっぱらiPodだ。

 しかしいくら特急列車で暗騒音が多いとはいえ、ポータブルオーディオ装置付属のヘッドホンには感心しない品質のものが多い。そこでグレードアップ用ヘッドホンのベストセラーであるソニーのMDR-E888をしばらく使っていた。

価格が割合リーズナブル(約6千円強)というのも嬉しい。その音質はポータブルオーディオの付属品のものとは比較するまでもなく、ワイドレンジでスムース。この音を支える振動板が味の素KKと共同開発したバイオセルロースという点がユニークだ。

 しかし、その反面どうしてもドライバユニットの直径が大きくなりがちで、俺のように耳穴が小さいと次第に耳が痛くなる欠点があった。

 ある日、購読していたMacPower誌で、デンマークのB&O(バング&オルフセン)社の製品であるイヤホン「A8」を目にした。

 他に類を見ないその形状、そしてB&Oという憧れのブランドに魅了された。Webで検索すると福岡のサウンドマックというお店で通信販売(当時)を行っていることが解った。価格は12,800円(1999年当時)。最近は秋葉原のヤマギワなどでも通販してくれるようだが、価格は最近の為替相場を反映してか14,800円に改訂されてしまった。それでも同社の37万円もするCDコンポに比べれば充分手の届く「B&O製品」である。

 早速サウンドマック問い合わせてみると、バックオーダーを多数抱えているが、納期一ヶ月ほどで入手可能だという。即、オーダーした。サウンドマックは納期について逐一連絡をくれ、たいへん好感を持った。

 そして一ヶ月後、割と素っ気ない段ボールの小箱に入ってそれは届いた。開封すると、本体のほか、本革ケース、延長ケーブル、イヤーパッド(2ペア)が同梱されていた。

 PC周辺機器ばかり買っていたせいでしばらく忘れていた感覚である。オーディオ装置にときめいたのは何年ぶりだろうか。片側につき3カ所の調整ポイント…社名ロゴ部の伸縮および回転、ネジ箇所の回転…を弄りながら、ベストポジションを探ること約10分、耳に馴染むかけ心地が得られた。慣れれば片側30秒もかからずにベストポジションが得られると思う。

 ケーブルは日本では一般的な片出し式ではなく、両側均等式。細くてしなやかなケーブルは取り扱いに気を使うが、曲げぐせがつきにくく、頬がくすぐったくなることが少ない。

 いつものMDウオークマンでいつもの曲をかけてみた。全体的にスピード感があり、高音は繊細でシルキーだ。低音の量感はソニーのMDR-E888に譲るが、質感ではA8が勝る。いつもの声、いつもの楽器に別の表情が見えてくる。どちらかといえば高音重視の音づくりと感じた。KOSSのようなブーミーな音が好みの場合にはちょっと嗜好には合わないと思う。

 MDR-E888が実売6千円なら、この音だけでも12,800円は納得のプライス。その上このA8は、長い間着けていても耳が痛くならないというおまけ付きだ。

 ポータブルオーディオで人とは違う優越感を味わいたい方、B&Oのテイストの片鱗をお手ごろな価格で感じたい方に、ぜひお勧めしたい。

 なおこのヘッドホン、通販元のサウンドマックの話によると、クリスマス頃までにはバックオーダーが解消できそうだとのこと(1999年当時)。また、東京近郊では秋葉原のヤマギワで試聴できる。


追記
このページをご覧になっている方からメールを頂いた。このヘッドホンのケーブルの本体側付け根部分と、二股分岐部分は断線しやすいが、「2年保証」の対象外なのだそうな。しなやかなケーブルゆえ取り扱いには気を付けたい。

(2004年1月26日)

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