RICOH Caplio GX100 インプレッション




 
本製品は、みんぽすからの借用品である。


■地味なボール紙の中の緻密なボディ

リコー Gaplio GX100。簡単に言えば名機GR DIGITALのズーム付きである。

まず外装箱。エコを狙った地味なボール紙の箱だが、これがGX100に期待するイメージにマッチしていて実にいい。フルカラーでコーティングされた他社のカラフルな箱とは一線を画す、まるで業務用機器のような箱。この製品のコストは外装箱なんかにはつぎ込んでいません、というようなメッセージが感じられ、期待が高まる。

開封すれば、やや大振りな箱から登場する緻密な筐体が、意外と小振りなのに驚く。ビニール袋から出してみればザラついた塗装と指に吸い付くグリップラバーの感触が心地よい。この質感でMade in Chinaなのだから恐るべし。一般的に中国生産の工業品は当たり外れが多いようだが、このモデルに関しては質感において中国生産のデメリットは感じられない。

ただ同梱の取説の紙質はあまり上等なものではない。取説もPrinted in Chinaなのだが、ちょっとこの取説は何度も参照したり少し湿気を吸うとヨレヨレになりやすいように思う。

ところで現物を見るまでは気になって仕方がなかった「CAPLIO」ロゴだが、現物を前にしてみればカメラ全体から放たれる緻密感に紛れてしまい、ほとんど気にならなくなった。しかしご存じの通りリコーはCAPLIOブランドを今後廃止するようで、今後このロゴの消えたGX100相当のモデルが出るとすればより嬉しい方向への改善と言える。

ボディを一通りなで回した後、バッテリーを充電する。充電器はかなり小型で好感が持てる。充電のLEDは点灯が充電中、消灯が充電完了、点滅がエラーなのだが、このロジックでは充電完了なのかLEDが見えていないだけなのかの区別が付かない。ここは点滅が充電中、点灯が充電完了、消灯がエラー、にした方が良かったように思う。(充電開始時には充電器をコンセントに挿すため、消灯でも気がつきやすい。また充電途中のエラーはかなり確率的に低いため。)


■電源を入れてみる

充電されたバッテリーを本体に装着する。バッテリーの表面処理とカメラ本体側のテンションのかけ方が絶妙で、本当に滑らかにバッテリーが吸い込まれ、ロックされる様子もまた緻密である。しかもこのバッテリー挿入口は巧みな作りで、付属充電池を抜けばそのままアダプターなしでアルカリ単4電池2本が挿入できるギミックが備わっている。

但し乾電池はアルカリ電池が推奨されており、試しに手元のニッケル水素、ニッカドなどの電池を試したところ、これらの電池の電圧が1.2Vのせいだと思うが、数分でダメになった。やはりメーカー指定通りアルカリが必要なようだ。バッテリーのフタのロックが、よくあるバネ式ではない点には少し戸惑った。

電源を入れるとやや大きな「ゴトゴト」という振動を立てながら沈胴式レンズが伸びる…はずなのだが、うっかりレンズキャップを外すのを忘れ、液晶画面にキャップを外すようメッセージが表示されてしまった。キャップを外した途端にレンズが伸び始めたのだが、キャップを外すまでずっとテンションがかかっており、少し心配である。

本機の兄貴分であるGR DIGITALには電動式のオートレンズバリアが備わるが、本機はGR DIGITALとほぼ同じ大きさでズームを積む開発目標があったのか、1枚目のレンズがかなりレンズ鏡胴に対して前に出ている。このため、オートレンズバリアを納めるための数ミリの厚さが確保できず、あえなくキャップ式になってしまったのだろう。

もっとも、単焦点のGR DIGITALの方もレンズ収納時にはレンズの一部を横にずらすなどの荒技(リトラクティングレンズシステム)を使っているので、それと同じギミックを持ったズームは難しいというか不可能だったのだろう。(なお、最近発売されたリコーR8はズーム式ながら「リトラクティングレンズシステム」を装備している。)


■撮影してみる

液晶表示は現在の標準レベルだが、メニューなどのフォントのジャギー(ぎざぎざ)がひどく、ボディの質感に追いついていない印象を受けた。他社と比べても液晶の解像度が足りない訳ではないと思うので、今後のモデルではフォントに一工夫が必要だろう。

各操作ボタンは特に操作しにくいものなどはない。「ADJレバー」や「アップダウンダイヤル」は想像していたより操作感は軽かったが、モノが小さいだけにこれ以上重くしたら指が疲れるだろう。「ADJレバー」ではよく使う機能を3つまで登録して優先的に呼び出せ、fnキーでもよく使う機能を1つだけ登録してショートカット操作ができるようになっている。

テスト撮影してみる。本機は撮影用のフラッシュメモリがある程度内蔵されているので、何枚かはSDカードなしでも撮影できる。SDカードが入っていればSDカードへの撮影/再生が行われるし、SDカードが入ってなければ内蔵メモリへの撮影/再生となる。内蔵メモリをSDカードにコピーする機能もある。

レンズはワイド側が24mmと、コンパクト機にして破格のワイドさである。但し、やはり小さいズームレンズなので、ワイド側は一目で見てそれなりにタル型歪みがある。構図を工夫する必要がありそうだ。

発色はこのカメラの特徴の1つである。やや「紫かぶり」とも思える色調に味がある。オートホワイトバランスは決して優秀ではなく、ごく僅かな画角の変化でホワイトバランスも変化してしまう。手持ち撮影だと、同じ画角のつもりで何枚か撮影すると、明らかに色調の異なるショットが何枚か混じることがあった。

晴天時と曇天時の色乗りの差は大きい。おそらく、小型の撮像素子では低照度時はどうしてもノイズが出やすいため、発色を控えめにしているのではないかと思われる。

AFの速度はお世辞にも速くない。そのため、動体に対してフォーカスを合わせることはほぼ不可能である。動くものに対してはスナップモードや無限遠モードなどの固定焦点モードを使うことになるだろう。

マクロはワイド端で1cm、テレ端で4cmで合焦する。あまりにも近くまで寄れるのが面白く、慣れるまではレンズ鏡胴の先を被写体にゴツンとしてしまうこともあった。マクロモードにするとAFがさらに遅くなるが、AFポイントを上下左右ボタンで自由に移動ができるようになる。 AFポイントの移動と言えば、上または下キーと左または右キーを同時押しすれば、きちんとAFポイントが斜めに移動するのには感心した。なかなか2キー同時押しで斜め移動ができる実装をしてくる会社は少ない。

AFは逆光に弱い方だと思う。被写体より背景が明るいと、そちらに合焦しようとする。スポットAFを使っても同じだ。背景がぼけている場合には、結局迷いっぱなしということがしばしばあった。そのため、折角AFポイントの移動はできるのだが、マクロ時はマニュアルフォーカスにした方がテンポ良く撮影できた。

このGX100には他社にありがちな顔認識の機能はないが、その代わりに斜め認識という機能がある。機能の名前だけを聞いたときには自動的に水平出しをしてくれる機能かと思ったが、そうではなく、正面から撮影できないものを正面から撮影したかのように画像補正する機能である。たとえば斜めから撮ったホワイトボードを、正面から撮影したかのように補正してくれる機能だ。

この斜め補正機能はかなりプロセッサパワーを食うようで、取説によると処理時間は最大52秒とある。なんとも強引な機能である。補整に1分近くかかる機能なんて積むだけ無駄、とマーケティング的な判断をせずに実装してくるところが、技術最優先な会社っぽくて微笑ましい。

リコーはこういった映像変形処理を重要視しているようで、新型のR8では、レンズのワイド側の歪みを画像処理で自動補整する機能が入っているようだ。


■電子ビューファインダーが標準添付

本機はVF KITなので、電子ビューファインダー(EVF)が標準添付されている。液晶の明るさは他社比では悪くないのだが、やはり明るい屋外では覗き込むタイプのファインダーは何かと有利だ。普通のコンパクトデジカメにある光学式のファインダーではなく、液晶と同じ、撮像素子に映った映像を電子的に表示するファインダーである。視野率も限りなく100%に近いし、パララックスもない。ただ、ビデオカメラ的視野になるので、本機に期待してしまう「デジカメっぽくない」操作感からは揺り戻されてしまう感がある。

EVFは視度補正もきちんと付いており、ローアングル撮影にも対応する本格的なものだが、いかんせんアイカップが小さく、目に強く押しつけることが難しい。そのため一眼レフでよくやるような「目の上の骨にアイカップを押しつけることで手ブレを軽減する」というワザは使いにくいので留意されたい。


■SDカード大容量時代に追いつかない再生系

一方、本体再生はかなり貧弱である。1枚表示もサムネール表示も遅いし、3枚表示は何が便利なのか不明で、メリットが見いだせない。それどころか、3枚表示モードを経由しないと12枚表示へのモード遷移ができず、スピーディーな操作の妨げになっている。

近年SDカードは大容量化が著しいが、それに甘えて何百枚も撮影すると、本体での再生速度の遅さが仇になって大変苦労する。この再生速度では本体で写真を整理するのはちょっとムリで、パソコンを使うことが前提だ。経験談だが、飲み会の席で、本機で撮影した900枚ほど入ったSDカードからちょっといいショットを見せようと思って探しているウチに、なかなか目的の写真にたどり着けず、話題が変わってしまうことがあった。

本機の撮影時の画質は[F](FINE)と[N](NORMAL)が選べる。10Mピクセル時のファイルサイズは、Fが3.6MB/枚、Nは2.1MB/枚である。これはメーカーの考え方次第だと思うのだが、本機は画質よりファイルサイズを守ることを優先させているようで、Nモードで細かい絵柄の被写体…たとえば桜並木などを撮影した場合、圧縮ノイズがひどくなる。

ファイルサイズを守ることにより撮影可能残枚数の予測がしやすくなると言うメリットはあるのだが、SDカードが1GBだの2GBだのが安価に買えるご時世では、もう少しファイルサイズを被写体に合わせて成り行きにしても良かったのではないだろうか。たとえばキヤノンの10Mピクセル機では、Nモードに相当する画質モードでも、被写体によりファイルサイズが1.1MB〜3.6MB/枚程度まで変化する。撮影可能残枚数の予測は誤差が大きくなるが、絵柄によっての圧縮ノイズの破綻は少ない。

個人的には、Nモードでの撮影は、細かい絵柄の場合2Lサイズプリントまでが限界ではないかと思った。A4サイズやPCのモニタで鑑賞する場合には、ちょっと容量を食うがFモードの方がいいだろう。


■写真に向き合う姿勢が変わる

AFの遅さ、本体再生速度の遅さを考えると、とにかくスピード勝負で撮影することには全く向かない。一方、撮影条件を整えたときの切れ味は目を見張るものがあるので、1枚1枚をじっくりと撮影するタイプのカメラと言えるだろう。デジカメになって何千枚もの画像のハンドリングが当たり前になったご時世に、フィルム時代の終了と共に置いてきた「1枚入魂」の気持ちを思い出させてくれる。本機の手に馴染むクラシカルな外観もまた、フィルム時代のカメラ譲りである。

「数打ちゃ当たる」式の撮影でも結果的にはよいショットが撮れるかも知れないが、趣味としてのカメラはそれだけでいいのか?と問いかけられているように思える。このカメラを手持ちのカメラに加えることで、写真に対する姿勢は自ずと変わるだろう。

■撮影サンプル

gx100sample-6
プログラムオート ISO100 -0.3EV コントラスト+1 シャープネス+1



gx100sample-1
プログラムオート ISO100 -1EV
基本的には優しめの発色



gx100sample-2
プログラムオート ISO100 -0.3EV



gx100sample-5
プログラムオート ISO100 -1EV 硬調モード 晴天夕方日陰で撮影



gx100sample-7
プログラムオート ISO100 -0.3EV コントラスト+1 シャープネス+1



gx100sample-8
絞り優先AE F=4.4  ISO100 0EV コントラスト+1 シャープネス+1
雨上がりの朝の日陰で撮影



gx100sample-3
プログラムオート ISO100 0EV WBマニュアル 室内自然光 ガラス越しで撮影



gx100sample-4
プログラムオート ISO336(Auto) -0.3EV WBオート 硬調モード 
室内蛍光灯下で撮影 身長20cm程度のフィギュア



(2008年4月13日)



トップページに戻る