Canon PIXUS MP770インプレッション




 

●複合機という選択


お店によっては2万円台で入手できるMP770。2004年冬商戦の売れ筋となるはず。なお、箱は58 x 54 x 43cmとそれなりにデカい。
近年、プリンタ市場において複合機が盛り上がりを見せている。それは下落する一方のプリンタの単価を高い付加価値で少しでもつり上げたいメーカーの思惑と、一体型パソコンの普及に代表されるようにパソコン周りの周辺機器であれもこれも要塞のように装置を並べるのはスマートではないというユーザの思惑が一致した結果であると推察される。

また複合機はパソコンを使わずともカラーコピーは勿論、単体でデジカメや携帯電話からのプリントに対応している点が、家庭の財務省を説得しやすいことも普及を促す要因にもなっている。

複合機はちょっと前までは1世代前のプリンタのメカを利用して造られていることが多く、最先端の画質競争からは常に置いていかれていたのだが、ここにきて、各社とも最新のプリンタメカを搭載した複合機をリリースするようになってきた。いままでは設置場所や使い勝手などの理由でどうしても複合機でなければ困るというユーザしか複合機を買わなかったところが、画質の面でも複合機を選ぶ理由ができたと言うことだ。

また、価格の面でも大変なことになっている。今回紹介するPIXUS MP770はPIXUS iP4100と同じプリンタメカを搭載していると思われるが、iP4100の実勢価格に7〜8千円をプラスするとMP770が買えてしまうのである。しかも付いてくるスキャナ部は7〜8千円クラスのLED/CIS方式ではなく、自動ホコリ除去機能こそないが1万円中盤クラスのCCD方式なのである。コストパフォーマンスの面でも、複合機は侮れない。


●いきなり初期不良

kakaku.comなどの掲示板によると、MP770の初期不良は主に2種類報告されている。1つは原稿台を閉める際に「バキ」と大きな音がする症状、もう1つは縁なし印刷時用紙の端から3cmくらのところに白線が見える症状である。「バキ」音はキヤノンは不具合とは認めておらず、キヤノンのWebページでも不具合ではなく実動作にも差し支えない旨の告知がされているが、既に流通の主流は対策品になっているようで、今から購入するのであればたいてい「バキ」音はしない個体だろう。なお「バキ」音はスキャナ部のフタを全開した状態(直立状態)から不用意に倒れないようにするロック(爪)が解除される音であり、「バキ」音がしないよう改良された個体では、よりフタが倒れやすくなっているという副作用があるようだ。

で、俺が買ってきた個体だが、上の2種類とは別の不具合が発生した。本体後部の給紙口から、マトモに給紙されず、かなりの高確率でジャムってしまう(用紙詰まりが起きてしまう)のである。幸い店頭在庫が豊富な店で購入したので、購入したその日のうちに別の個体と即交換して貰えた。


●設置場所に困る

MP770は筐体の高さはあるものの、A4サイズの単体プリンタと比べて設置面積はやや広い程度であり、単体プリンタからの置き換えは視覚的な圧迫感はあるもののあまり困らない。俺が用意した(昔からプリンタを置いていた)ラックはよくありがちな以下の写真のようなもの。棚の広さはおおよそ35cm×60cmである。




しかし、MP770はそのままではこの棚には置けないのである。理由は2つ。1つはMP770本体を接地面から僅かに浮かすための小さい脚がこの棚の網にうまく乗らない。その結果、筐体がゆがみ、排紙口がボタンを押しても開かない。2つめはこのラックはフチの部分が僅かに高くなっており、本体下部に装着されている給紙ユニットを引き出す際に引っかかってしまうのである。MP770の接地面の理想は固くて平らな1枚板なのだが、このようなメッシュのラックに置くには、一工夫必要なようだ。

そこでゴム脚を自分で取り付けることにする。近所のDIYセンターでちょうど良さそうな大きさのスポンジゴム10cm×10cm×2cmのもの(@126円)を2枚買ってきた。




これをそれぞれ2等分し、MP770の裏面に貼り付けた。貼り付ける場所は底面中央の濃いグレーの用紙トレー部を避けるようにする。ここに貼ってしまうとトレイが引き出せなくなってしまう。


素の状態

自作ゴム足をつけた


これで筐体がゆがむこともなく、無事にメッシュのラックに置けた。





●2002年モデル PIXUS 850iと写真画質を比較する

MP770は顔料黒色インクを搭載するキヤノン唯一の複合機であり、プリンタ部分はiP4100相当と推察される。前にも書いたとおりちょっと前までは複合機といえば1世代前のプリンタメカを搭載するのが通例だったが、最近はどのメーカーも最新のプリンタメカを積んだ複合機を主力に据えており、ユーザーとしては嬉しい限りだ。

俺は2002年モデルのプリンタ単体機PIXUS 850iからの買い換えなので、写真画質を比較してみた。850iの後継機は現在iP4100となっており、つまりプリンタ部はこのMP770も実質的な同クラス後継機と言える。850iと比べてMP770は、染料黒色インク(写真用)が追加になっている点と、850iがシアン(C)・マゼンダ(M)が2pl(ピコリットル)、イエロー(Y)が5plなのに対して、MP770は全弾2plになっている点が主な違いだ。

両者で同じ画像を印刷したものをMP770のスキャナ部でスキャンした結果を以下に示す。



PIXUS 850i 印刷サンプル(1)

PIXUS 850i 印刷サンプル(2)


PIXUS MP770 印刷サンプル(1)

PIXUS MP770印刷サンプル(2)

パソコンのモニタでは解りにくいのだが、実際のプリントを見た印象では、写真用黒(K)インクが追加になっているので、暗部が気持ちよくストンと落ちているのが印象的だ。850iでは黒(K)がないため、KはC、M、Yの全弾打ちで表現している。しかし、そうやって出した黒は黒々しい黒にはならない。黒が緑が買った濃いグレーや青みがかった濃いグレーになるのだ。上の写真で言えばミッキーの靴がそれに当たるのだが、画面ではやはり解りにくい。

また、MP770ではC・M・Yインクが「黒を表現する」という役割から解放されたせいか、黒以外の色についても、850iと比較して伸び伸びとした色味になるのも印象的だ。色のヌケが良くなり、薄いベールを1枚はがしたような仕上がりになる。


●メモリカードスロットと赤外線通信

本機のメモリーカードスロットはデジカメのメモリカードを装着してパソコン不要で印刷ができるのは勿論、パソコンからはUSB接続のメモリカードリーダとして使える。ただし、パソコンの電源が入っている状態でメモリカードを入れるとパソコン側でもマウントしてしまうため、そのままメモリカードを抜くとパソコン側で「勝手に抜くな」という趣旨のアラートが表示される。取説にはメモリカードはMP770の電源を切断してから抜くように書かれている。また、赤外線ポートは赤外線で画像が転送できる携帯電話を使って、携帯電話内の転送可能な画像を印刷させることができる。


●ギャラリー


操作パネル。液晶部は手前に傾けることができるが、そのギミックの用途は不明。

液晶表示部。いまどき珍しいSTN液晶で、発色が悪く応答速度も遅い。つか、久々にSTN液晶見たんですけど。携帯電話の綺麗な液晶でも積めなかったんだろうか。



背面部収納時。後ろの給紙口を使わなければ壁ギリギリに寄せることができる。ただしUSBコネクタが長いものだと当たるかも。

背面部open時。上の黒い部分が給紙口で、下の開いているところは用紙詰まり時のメンテナンスハッチ。上の黒い部分の作りが悪く、伸縮が非常にしにくい。コストダウン、MADE IN CHINAを感じる。



スキャナ部のヒンジは伸びるので、ある程度厚さのある原稿もホールドすることができる。

スキャナ部のフタの内側を外すとフィルムスキャン用の発光面が現れる。



フィルムホルダーはスキャナのフタの内側に収納できるようになっている。なかなか秀逸。

インク交換時。クルマのボンネットのように操作パネルとスキャナ部を跳ね上げる。ただし強固にリンクされており、これ以上の角度で開くことはできない。


●その他気になった点

用紙は本体後面と本体下部に装填することができるが、どちらかの給紙も結構盛大な音がする。(印刷が始まってしまえばかなり静かなのだが。)これはプリンタドライバの設定でサイレント設定をONにすると、若干速度が犠牲になる代わりに、すごく静かに給紙される。遅いと言っても俺はそんなに気にならない速度だったので、普段からサイレントをONにして使っている。

本体下部の用紙トレイは印刷面を下にしてセットする必要がある。俺はうっかり間違えた。

顔料インクでの美しいモノクロ印刷は健在。上位機種にも採用されていない、本機ならではのメリットである。また、キヤノンのプリンタはここのところみんなそうなのだが、プリントヘッドがユーザの手で簡単に交換できる(というか、初回セッティング時に自分で装着する必要がある)ので、永く使う場合にもありがたい。


(2004年11月21日)

トップページに戻る