HDC-SD3、SDカードに撮影するハイビジョンカメラである。今までテープ式やDVD式のカメラを使っていたが、ビデオカメラの本命は駆動メカのないメモリ式だろうと常々考えていた。ハイビジョンカメラが台頭してきた折、HDC-SD1というメモリ記録の民生用ハイビジョンカメラが松下より登場したが、当時は同社のブルーレイレコーダ程度しか再生環境がなかった、シーンごとに一瞬停止するいわゆる「息継ぎ」と呼ばれる現象が発生すると言うことで時期尚早の感があった。
しかし2007年3月にPS3がバージョンアップされ、SDカードからのAVCHDデータの再生やHDDへのコピーに対応したことと、息継ぎが解消される見込みと聞いたため、タイミング良く4月に発売になった後継機のHDC-SD3を購入した。後継機を選んだのは、HDC-SD1が当初予定より前倒しで発売されたと聞いていたため、色々な箇所が「突貫工事」設計になっているのではないかと思ったからだ。
近所の家電量販店に予約を入れたところ、kakaku.comの当時最安値よりさらに安く予約でき、しかも発売日前に届いてしまった。なお、購入した販売店では、特典として一脚と、ミキハウスのポーチが付いてきた(このポーチには日立のロゴが入っているようだが大丈夫か…?)
梱包箱はたいへんコンパクトで、これといった緩衝材も入っていないが、段ボールの折り曲げなどで工夫してパッケージされている。ケーブル類が入っている内箱をどこから開けて良いのか迷った。
筐体はSD1のホワイトパールをあしらったカジュアル感のある塗装から、より普通のビデオカメラらしいシルバー中心のカラーリングとなった。グリップ部の張り出しが大きくなり、グリップストラップの高級感はややアップしたが、SD1の「筐体が丸すぎて持ちにくい」という弱点の改善は小幅にとどまった。しかしハイビジョン再生となる大画面では少しの揺れでも大変見にくいため、撮影時は両手でのホールドが原則だろう。ビューファインダーがなかったり、バッテリーが本体に完全収納式だったりと実用上は色々不便な点があるが、初代機にありがちな「今までとは違う」というデザイナーの思い入れなのだろうと思う。
他に同時に購入したものは、スペアバッテリー1本と、SDカードケース。SDHCに対応したメモリーカードリーダー(SDHCほか全30メディアに対応したバッファローのMCR-C30H/U2)である。出先でのアクシデントに備えてSDカードのスペアも1枚欲しいところだが、4月末にPanasonicのclass6のSDHC 4GBが発売になるので、それが出てからのclass2の価格動向を見極めてからにしたいと思う。
HFモードのみ、フルハイビジョン(1920×1080画素)での撮影となり、それ以下のモードでは1440×1080画素での撮影となる。過剰な期待は禁物なのだが、今までの家庭用ビデオカメラでも放送品質の映像が撮影できなかったのと同様、HDC-SD3でも放送されているBSデジタルなどの映像には遠く及ばない。これはもう撮像素子(CCD/CMOS)の大きさや、レンズの性能が支配的なので、手のひらサイズではどだい無理がある。それでも現時点で、従来の家庭用ビデオカメラの6倍の情報量となるフルハイビジョン画質で記録できるのは、独自規格のビクターのエブリオと、このAVCHD規格のHDC-SD3しかないのである。子供の成長は待(以下略
画質はBSデジタル放送のようなシャープな感じではなく、スッキリしてやや優しい感じ。斜め線に見られるジャギーも少なめだ。色の乗りはPanasonic 3CCDシステムの特徴である赤方向の描写が鮮やかだが、不自然なほど色が乗っているわけではない。カメラがさほどカリカリの画質にしていないのでエンコーダには優しいはずなのだが、それでもAVCHD規格に起因すると思われる、細部の描写のふらつきがやや気になる。
カラーバランスは晴天ではオートで良好。室内や曇り、日陰ではやや緑または青かぶりが多いように思う。一手間かけてマニュアルでホワイトバランスを取り直すとより良好な映像が得られる。
今までのビデオカメラはテープ式にしろDVD式にしろ、電源オンから撮影終了まで節々にメカの感触というか、存在感を感じたものだが、SDカードにメカレスで記録するというのは何か「カメラとしての精密感」みたいなものが希薄である。逆にこれに慣れてしまえば、従来のカメラが「煩わしい」ということになるとは思うのだが。
本体にはフルサイズのHDMI端子が装備されており、最近の「前面HDMI入力」端子があるテレビだったら容易にハイビジョン画質での鑑賞が可能だ。但し付属するのはD端子ケーブルで(これだけでも立派だが)、4千円ほどするHDMIケーブルは別売りである。
SDカードにハイビジョン映像を撮影するのはいいけど、撮った後どうするのよ?というのがこの「カードにハイビジョン」なカメラの最大の関心事だと思う。
とりあえずPS3(ソフトウエアバージョン1.6以降)にSDHCカードを挿し、SDカードのアイコンから△ボタンで「すべてを表示」を選び、PRIVATE/AVCHD/MDMVフォルダをブラウズすれば動画の再生はできる。
撮影した動画データはPS3のHDDにもコピー可能だが、カード、HDDどちらかの再生でもシーンごとに停止してしまい連続して再生することはできない。なお、後述のHD Writerで作成したAVCHDディスクであれば、PS3でシーンを連続再生可能だが、AVCHDディスクはPS3のHDDに取り込むことはできない。
SDカードに撮影しっぱなし、満杯になったらSDカードを買い増し…という富裕層も非現実的だと思うので、大抵のユーザは撮影した映像はPanasonicのDMR-BW200などのBDレコーダーでブルーレイディスク(BD-RE)にコピーするか、パソコンを使ってDVDにコピーすることになる。もちろんバイト単価が安くて高速なパソコンのHDDに取り込んで当面塩漬けにしておくという方法もある。
なお、カメラ本体では編集といえば「シーン単位での削除」程度しかできず、1シーンの中の不要部分の削除(部分削除)や分割などは一切できない。シーン内で不要な部分を削除したい場合はパソコンでの編集が必要である。
パソコンへの取り込みには、付属のソフト「HD Writer」を使う。HD Writerでは取り込みのほか、ごく簡単な編集や、DVDメディアへの書き出しが行える。またSDカードの読み取りにはビデオカメラHDC-SD3をUSB接続すれば良いのだが、カメラにACアダプタを接続しないとPC接続モードにならないので、千円~2千円前後で購入できる市販のメモリーカードリーダーを使うのがよいだろう。
最近になってAVCHDの取り込みに対応した高機能なソフトが徐々に出始めたが、俺のように「フェード不要」「トランジション不要」「字幕不要」なライトなユーザにはHDC-SD3付属のHD Writerで充分である。
PCを使った場合の撮影から保管までの流れは、俺の場合以下のように構築した。
(1)SDカードに撮影→HD WriterでPCに取り込み、不要な部分をカット、DVDに書き出す。(観賞用ディスク)
(2)バックアップのためPCに取り込んだAVCHDデータを、フォルダごと一般的なライティングソフト(B’s RECORDERなど)でDVDに書き出す。(原本保管用ディスク)
(2)のディスクがあれば、パソコンのHDD容量を圧迫せず、かつ、(1)が破損した場合や、将来もっと高機能な編集ソフトが出た場合の素材として利用できるはずだからだ。
ここで残念な発見があった。解消されていると聞いていた「息継ぎ」だが、HD Writerの「メディア間のコピー」メニューでSDカードから単純コピーしたAVCHD記録のDVDだと息継ぎがないのだが、「簡易編集」画面から作成したディスクだとPS3での再生でも息継ぎが発生してしまう。少なくともディスク化するにあたっては不要部分のカットくらいはすると思うので、結局は実用上は息継ぎが発生する状態で使うことになってしまう。
もしかするとカードに書き出してカメラ本体で再生すれば息継ぎがないかも…と期待して試してみたが、やはり息継ぎは残った。重ね重ね残念である。
なお、AVCHDディスクとして書き出す場合はトップメニューの作成が可能だが、このデザインがいかにも松下電器的というか、日本人のセンスで作られているのが良い。DVD書き込みソフトが用意しているトップメニューというのは、えてして外人のセンスで作られたドギツイものが多いので、嬉しい点だ。
HD Writer上で動画をなめらかにプレビューするためには、Pentium4 HT 3.0GHz以上のCPUが必要なようだが、メーカー資料によるとプレビュー機能がなめらかでなくても良いのであれば、PentiumIII 1.0GHz以上で良いという。俺の環境もPentiumM 1.3GHzなので、再生時に以下のようなダイアログが表示される:
HD WriterにはCPUの能力を自動的に判断して、プレビュー時のコマ数を自動的に調整する機能があるようだ。一方、環境設定でプレビューのコマ数を強制的に変更することができる。
俺のPentiumM 1.3GHzでは2コマ/秒の能力と判断されているようだが、プレビュー時にWindowsのパフォーマンスモニタを見るとまだまだ余裕がありそうなので試しに10コマ/秒にしてみたが、CPUはフル稼働するようになったものの、コマ数が一定せずかえって見にくくなってしまった。どうせGOP編集しかできないのだから、2コマ/秒で問題ないのかも知れない。
実家のおじいちゃん、おばあちゃんに孫の映像を送りたいという要望もあろう。その場合はHD Writerの今回のバージョン1.5から追加された「MPEG2形式で保存」機能を使えば、シーン単位、または日付単位でMPEG2ファイルを生成することができるので、市販のDVDオーサリングソフトウエアで一般的なDVDプレイヤーで再生可能なDVDを作成することができる。
試しにMPEG2に変換させてみたところ、PentiumM 1.3GHzで、実時間の4.7倍かかった。30分の映像だと2時間40分ほどかかる計算だ。
ここでくせ者なのはできあがったMPEG2ファイルの音声形式がDolby Digitalの5.1chであること。このMPEG2ファイルを食わせるオーサリングソフトも、5.1ch音声に対応している必要がある。
手元にあったPanasonic製の「DVDfunSTUDIO ver2.2」に読み込ませてみたが、音声が5.1chであることを理由に、はねられてしまった。では5.1ch音声に対応したオーサリングソフトとは何があるかと言えば、Panasonicは情報を公開していないし、問い合わせても「紹介できません」と言う。
思うに従来形式のDVDを作る場合は、パソコンで編集したあとHD WriterでSDカードに書き戻し、それをDVDレコーダーの外部入力端子に接続したHDC-SD3でDVDにダビングするのが良いのではないか。ローテクな方法かも知れないが、意外とこの方法が所要時間が短いはずだ。こういった過渡期では、なんでもかんでもパソコンでやらないという発想の転換も必要だろう。
なお、HD Writerでは書き出し時の並べ替え状態を保存することができない上、HD Writerが起動しているとWindowsがサスペンド状態に遷移できないようだ。並べ替えからディスクの作成まで一気に実行する必要があるため、大作の製作には向かないと思われる。
結論としては、撮影はオートが中心、少しでも早く子供の成長記録などをHD化しておきたいご家庭に最適、ただし編集環境は現時点ではかなり限定的ということになる。
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