いつかは社会の許容の閾値を超えるんだろうなぁ…と思っていたことが、あっさりその時を迎えてしまいました。フジフイルムが公開したプロモーションビデオでストリートスナップの一つの撮り方が示され、それが嫌悪感を持たれるような内容だったことから炎上した件です。動画へのリンクは貼りませんが、YouTubeで「富士フイルム 迷惑ストリートスナップ」で検索してみてください。
ライカでも数年前に似たような動画が公開されていたが、なぜ今回ばかり炎上するの?という声もありましたが、それは客層の違いというものでしょう。ストリートスナップは写真文化の一部だ、という声も聞こえましたが、時代が変われば許容されなくなるものは枚挙にいとまがありません。
ストリートスナップのすべてがああいった多くの人に嫌悪感を持たれるような撮り方で生まれているわけではないことは承知しておりますが、ほかの「今回のケースと比較すれば自分はセーフ」と主張されるストリートスナップシューターに対しても、社会がどう判断を下すかは本人の力の及ばないところではあります。
この手の撮影スタイルがどこまで許容されるか…というのは国民性にもよるので世界統一基準みたいなものは存在しえないと思いますが、日本においては先人たちはギリギリのバランスをとってきたように思います。ある人はちゃんと撮られる人に承諾を取って、ある人は甘いマスクやスマイルを武器にして、ある人は「仕込み」という手法で、ある人は撮影されたことを悟られないようにして、かつ、発表も大々的にはしないようにして、その人なりに大きな問題にならないやり方を模索してきたように思います。今回の件はそれらの努力を水泡に帰す形で悪いレッテルを貼られるきっかけになりました。
しかし今回炎上された写真家の作品自体は、けっこう目を見張るものがあるんですよね。ただそれが、「膨大に人間の不意を突いた瞬間から厳選されたもの」と知ってしまうと、また違った見え方がします。いままでそこに思いが至らなかったのは、いかに作品をボーっと見ていたかという鑑賞者へのブーメランでもあります。
だいぶ前からテレビにおいて、「この後スタッフがおいしくいただきました」とか、「動物虐待はしていません」的なテロップ付きで放送される映像がありましたが、今後はストリートスナップについても同様の対応が求められるのでしょう。あるいは表示しない場合には別途説明できる状態にしておく準備が必要になるでしょう。
一方で、こういったカメラマンがいますよ、という認知度を上げてしまったフジフイルム。少なくともあの動画を撮影して公開するまでのワークフローにおいてコンプライアンスのチェック機構が働いていないことだけは分かりました。全社としてそんな体たらくの会社だとはとても思えず、当該部門だけの不始末のような気がしますが、だとすれば尚更、社内におけるカメラ部門の寿命を縮めてしまった気がします。すでに問題の動画は富士フイルム自身は慌てて消したものの、コピーが拡散され回収不可能な状態になっています。そういったところの知見含めて、今の時代に生き残るスキルがないと社内で判断されたでしょう。
最近フジのカメラを買った者としてはとても恥ずかしく、ユーザーにそう言った思いをさせていることはフジフイルムには自覚していただきたいと思います。もちろん、一番迷惑を受けてるのは「勝手に撮られて、公開された方」ですが。
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