Apple Car 撤退のニュースに触れて

Appleですら価値創造を断念した自動車。おそらく SDV(Software Defined Vehicle) のようなものを作りたかったのだろうが、ちょっとクルマを勘違いしていた節があるようにも感じる。クルマというのは基本的に公道で運転が禁止されているもので、「免許」を持つ許可された人だけが運転できる。Appleが目指していたものの1つには究極的には免許不要な自動車も含まれていたのではないかと考えられるが、いままで免許が必要だったものが技術の力で免許が不要になったもの…といえばアマチュア無線機からの携帯電話への進化が連想される。

アマチュア無線機はいまでも免許が必要だが、不特定の人と無線で通話する手段は携帯電話の登場で免許が不要になった。ただ自動車はちょっと違う。それは電話と違って人を簡単に殺せるポテンシャルがあるところだ。乗っている人も周囲に居る人も、クルマの挙動次第で殺される可能性がある。Appleマークの付いた製品で誰かが死ぬなんて、そこまでの腹括りはできていなかったのではないかとも思う。昔からの自動車メーカーは交通事故と共に会社が成長してきたのである意味血染めの歴史とも言えるし、急成長したテスラは犠牲者を出すことに対して腹を括っている。しかしすでに優良ブランドを構築してしまったAppleが今からそこに手を染めるかというとそれは考えられない。なんなら同様の世界的ブランド力を持つソニーですらそこは腹を括れていないのではないかと思う。

一方で、SDVの目指すところの一つは企業側の継続的な収入確保にある。今回Appleが断念したのは同社が得意とする「ユーザーから定期的に収入を得る仕組み」のグランドデザインが描けなかったからではないかという説もある。自動車は現状ですら所有しているだけで税金やらメンテナンス費用やらコストがかかる。そこに自動車メーカーにも毎月お金が欲しい、と言われても喜んで金を払うユーザーはいないだろう。いや、Appleがやるからには喜んでお金を払ってしまうようになるはずなのだが、そのビジョンが描けなかったということだ。

AppleがAI分野で周回遅れで、自動車の開発などしている場合ではないというのはその通りなのだろうが、一体どれだけ腹を括って自動車をやってみようという気になっていたのか。生身の人間と分け隔てられていない道で1トン越えの金属の塊を動かすこと、そしてユーザーはすでに車の維持費について辟易していることをあまりにも軽く考えていたのではないかという気がしてならない。

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