60歳でリタイアする選択肢

在宅勤務をしていると、老夫婦のお隣さんの奥さんの方が挨拶に来て「しばらく留守にします」という。聞けば、北欧に10日間ほど夫婦で旅行に行くのだという。この寒いのにですか?と訝しがったが、「オーロラを見に行くんです」と聞いて納得した。

…という話を娘にしたところ、「北欧!オーロラ!!死ぬ!オシャレすぎて死ぬぅぅぅ!」と悶絶して見せた。浴室からお湯に浸かって「あ゛~」という声がウチまで聞こえてくるおじさんがオーロラを見に行くというギャップに耐えられなかったようだ。

お隣さんはおそらく年齢は80歳くらい。ご主人の方は少し前に大病をしたようで、しばらく入院したのち少しやつれて帰ってきた。今では車を運転できるくらいまでに復活して、少し前に350万円ほどの新車を買った。最近では家の屋根と壁を塗り直して、300万円くらいはかかっているのだと思う。そこに夫婦で北欧である。最近だけでもトータルで750万円は放出している。

このあたりに現代の80代の懐事情が見えてくる。もっとも、ちゃんと会社勤めしてそれなりに昇進した結果であればこういう懐事情にはなるのだろうが、今の80歳といえばイケイケの社会で「年金を納めるのなんて馬鹿らしい」と考えていた世代でもある。自営業を中心に年金納付を踏み倒していた人も多いと聞く。もちろんその結果、年金は雀の涙程度しかもらえない。

どんなお金持ちでもあの世には資産は持っていけない。寿命が見えたのであれば使い切ってしまおうという気持ちもわからないでもない。楽しい思い出があれば、目の前に迫った死に対して多少は気持ちが癒されるというのもわかる。でも自分は80歳で北欧なんて行ける気がしない。年金シミュレーションをすると、80歳で資産が枯渇する上に、脳梗塞経験者なのでそこまで生きられる気がしないためだ。

今年はいよいよアラ還暦に突入するので、身の振り方を考えている。今年もらった年賀状にはシニア雇用のオファーを受けないで60歳でリタイアした先輩からの近況報告もあった。自分を振り返ってみると、54歳で軽い脳梗塞をやったということは、同じ軽い脳梗塞をやった西城秀樹と重ねて考えてしまうところがある。西城秀樹は48歳で軽い脳梗塞になったが、15年後の63歳で亡くなった。脳梗塞経験者はどうしても余命が見えてくる。西城秀樹と同じく、初回脳梗塞発症時からの余命15年とすれば、自分の寿命は69歳。私の親、あるいは祖母が70歳前後で亡くなっていることを考慮すると、あながち外れていない予想のような気もする。

一方で今の勤務先、いよいよ来年から毎年1年、シニア雇用契約の満了時期が毎年1年ずつ伸びることになった。1961年生まれ(現在64歳)は66歳まで、1962年生まれは67歳まで…となり、1965年生まれは70歳までとなる。私の世代だと確実にシニア雇用は70歳までだ。これは年金を少しでも払いたくない国の政策に勤務先が従った結果である。

ただし辞めるのはいつでも自由。60歳で辞めてもいいし、65歳で辞めてもいいし、70歳まで働いてもいい。自分は65歳まで働くつもりでもいたのだが、寿命が69歳だとすると自由な期間4年というのはちょっと物足りない気もする。先の年賀状の先輩のように60歳でリタイアするのも悪くないかも…と思って、年金をシミュレーションしてみた。

結果、65歳でリタイアするときと比較して、60歳でリタイアすると毎月の収入が2割減となることが分かった。たった2割しか減らない?と思われるかもしれないが、シニア雇用の給料は低い(私の場合、現在の70%減)のでそんなものなのである。住宅ローンがなければ2割減でもなんとか暮らしていけるような気もするが、あいにく70代前半までガッツリ残っている。私が死ねば踏み倒せるので、よほど金利が急上昇しない限り積極的に繰り上げ返済する気持ちはない。

やはり寿命を69歳と考えた場合、65歳まで仕事をするのはちょっと勿体無い気もする。70歳まで働いたら、確実に仕事中に死ぬだろう。自分だけではなく同僚にもそういう人が出てきそうだ。国の政策とはいえ現状マストではない。年金額は減るが60歳からリタイアする選択肢も残されている。

そんな感じでお隣さんのようにリタイア後に海外旅行とか考える余裕がまるでないのだが、世代間格差の話でもあるのでどうしようもない。自分より下の世代はさらに年金はあてにできない状態になる。職場の1つ上の先輩とこういう話をしたら、「年金はあてにしてないので自力で老後資金貯めてます」と言っていた。立派である。

さてどうしますかね。60歳で辞めるか、65歳までやるか。あまり真面目に考えてなかった頃は65歳まで働かないと生活成り立たないでしょ?と思っていたが、真面目に寿命69歳でシミュレーションしてみると結構成り立ってしまう。運良くもっと長生きできたらどうするの?という問いには、人生のボーナスステージをもらったようなものだと思えばいい。

真面目にシミュレーションしてみて、今まで考えてもみなかった「60歳でリタイアもありかも」と思えたのは収穫だった。実際どうするかはそのとき考えるのだろうが、仕事の面では60歳以降どうやって会社に貢献できるのかも悩ましいポイントだったので(管理職を23年もやったのではシニア雇用で一般職に戻されても手に職がついていない)、そこから解放されるのもメリット。やっぱり悪くないかも。

 

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