まずは、ファーストガンダムの限られたエピソードでありながらも、現在の技術水準で映像化をしていただけたことに感謝したいと思います。しかもそこでチョイスされたのは一話でも最終回でもジャブロー戦でもなく、異端の15話。ガンダムなのにハウス名作劇場とも言われる15話「ククルス・ドアンの島」です。
前日のニュースウオッチ9で、監督の安彦氏がインタビューを受けていました。子供たちの日常を丁寧に描きたかったそうです。図らずとも公開時期がロシアのウクライナ侵攻に重なったことと、劇中でもウクライナでの「オデッサ作戦」の直前の時間軸ということで、ガンダム自体が掲げる普遍的な戦争に対するテーマと相まって、社会性があるとNHKは判断したのでしょう。
私は初日の初回上映に、仕事の休みを取って観に行ってきました。朝一から並んだのは映画の半券がないと購入できない本編・限定版 Blu-ray Discが欲しかったからです。7:20頃並びましたが、30番目くらいでしたね。
最新技術で描かれたファーストガンダムの世界は先に映像化された「ジ・オリジン」の世界と地続きでとても素晴らしかったのですが、観終わっても満腹感がありません。
映像は綺麗だし、演出も今風、ストーリーもTV版を膨らませたものなのですが、TV版で視聴者に抱かせた感情の再体験までには至っていないように感じたのです。見た目はTV版以上なんですが、動かされる観客の気持ちがTV版に至っていない。
何故だろうと考えました。
まず、尺がTV版の5倍以上になっているのに、オミットされた描写があって、
・アムロは当初ドアンに反発心を抱いており、皮肉を言ってカーラに平手打ちされるシーンがない
・子供たちの家が破壊されるシーンがない
このあたりがTV版と比べて深みが足りなくなってしまった一因なのかなと思いました。冒頭にも書いたように安彦監督は子供たちの日常を丁寧に描きたかったようなのですが、一方でジオンや連邦が側で暴れていても子供たちの日常が奪われるシーンはありませんでした。細かいことを言えば島で物資が不足しているはずなのに、やたらと夕食が豪華なのも違和感を覚えました。
他にも不満な点があって、
・ドアンがアムロに「君はこの子供たちのために戦えるか? 君の仲間とでも?」と問いけけていながら(これは宣伝でも使われていたと思います)実際には仲間と対峙するシーンはなく肩透かし。
・アムロが灯台を修理したことに対して「余計なことを…」とドアンが呟くが、具体的にどう余計なことだったのかの描写がない。(灯台のせいでピンチになってしまうなど)
・マ・クベの作戦上重要な弾道ミサイルが、ドアンの管理下にあると言う間抜けさ。
・サザンクロス隊の散り際に、プロっぽさが感じされない。(弱い)
・ドアンの子供たちとを並ばせる演出だけのために、「軍法会議もの」の作戦に出るガンペリーに何故か同乗しているカツ・レツ・キッカ。
・冒頭では戦地に近づかないようにしているのに、最終決戦ではわざわざ危ないところまで見に来る子供たち。
それと、これだけ尺があるのだったら、アムロがドアンの戦いの臭いを消さなければならないという想いに至った理由を丁寧に描いて欲しかったですね。あのエンディングありきなのは当然だとしても、そこが固定されているのならもう少しそこに至る過程が描けるのではないかと思いました。
あとは、これは安彦節なので仕方ないのですが、やたらと人物の動きが大袈裟。ちょっとした感情の変化ですぐ変顔になるのに見ていて疲れました。
一方で良かった点。マ・クベの締めのセリフ「私の部下にも文化を愛する者がいたと言うことか」は良かったですね。なんて気持ちのいいマクベ、まるでジブリアニメを見ているようです。また、名物のシーン、ガンダムがドアンザクを放り投げるところも分かってはいましたが感動的でした。あれは良かった。でも秘密基地にサザンクロス隊の高機動型ザクが残っているので、ドアンの腕前なら修理して使えそうですけどね(笑。あとは全編を通じてカッコいいガンダム。RX-78-02 を描いたアニメで全編を通じてここまでカッコいいのは他にないと思います。モビルスーツの動きに時代劇の殺陣を意識したと聞きましたが、なるほどカッコよさの源泉はそこでしたか。
森口姉さんのエンディングテーマも地味だなぁと思っていましたが、作品のエンディングには合っていますね。なんか「ポケットの中の戦争」のエンディングを観ているような錯覚を覚えました。
総じて、横浜の動くガンダムなどを観て興味を持ち、初めてファーストガンダムの世界観に触れる人には良い映画なんだろうなぁと思います。ラノベの世界でも今は登場人物が辛い目に遭うシーンは好まれないのだそうで、そう言う意味でもあまりしんどいシーンが描かれないのは時代の流れなのかも知れません。結果として、清々しいと言うか、実物大ガンダムで演出しようとしている方向性とは結構一致しているのかなぁと思いました。一方的な悪者でもない敵、ホワイトベースのクルーの友情、仲間のために上司に嘘をつくリーダー(ブライト艦長)、そしてククルスドアン本人、いずれも清々しさに貢献していました。
パンフレットは「通常版」と、通常盤にCGメイキングがついた「豪華版」、豪華版にお疲れ様本がついた「初回生産限定版」がありますが、お疲れ様本は別にいいかな…と思い、真ん中の豪華版を購入。
一方でBlu-rayの方は劇場限定版の方を購入しました。一番分厚いのは絵コンテです。
清々しいと書きましたが、ちょっと驚いたのはガンダムが生身のジオン兵を意志を持って踏み潰すシーン。連邦の白い悪魔らしさ満載ですが、全体的に清々しさのあるこの映画においては若干浮いていたように思います。
アムロ役の古谷徹さんもやはりこのシーンには葛藤があったようで。
【古谷】正直やりたくなかったです。アムロは、そこまでできるかなって…。
やっぱりそうでしたか…。ガンダムNTの冒頭はマーサの護衛が踏み潰されたり、ジ・オリジンでもミノフスキー博士が倒れてきたガンキャノンに潰されていたり、ここのところのガンダム映像作品では結構な頻度で描かれるものですが、ちょっと…。
まぁでも、ファーストガンダムを安彦氏監督で映像化するのはこれが最後ということで、ありがとうございました、お疲れ様でしたと言いたいですね。次のガンダム関連の映像は7月と8月に連続公開されるGのレコンギスタIV / V ですが、富野監督なのにククルスドアンより注目度が低いですね(笑。
コメント